おしんこが出てくると即、醤油をぶっかける。ラーメンには胡椒をふりかける。サラダにはドレッシングをかけまわす。そのものの味を確認することなく、ほぼ条件反射のごとくそういった行為に及ぶ。調理する人の立場からすると、何ともさみしい思いになるのである。まずはそのままで味を確認し、好みで加えていくのが正しいのであって、最初っからまるでそのもの「無視」みたいなことは、食べ物とそれを作った人に失礼であり冒涜である。人の意見を聞かずに、自分のやり方を押し付けるのに等しい。
職業柄、一般家庭にお伺いすることが多いが、コンサートホールやライブハウスなどにも出かけていく。そこで、その場にあるピアノの調律をするのである。ホール調律は、最終的に演奏者にその仕上がりを確認してもらうことがほとんどで、後のトラブルが発生することはまずありえない。ライブハウスの場合は特定の演奏者のために調律するわけではないので、いちいち演奏者の確認を取るという作業はない。つまり普通に調律をすればそれで業務が完了したことになるわけで、その後どのように変化していこうと責任の範囲ではない。月に一回の調律というパターンが多い。やったばかりのピアノのコンディションは当然いいわけで、日を追うごとに調律は狂っていく運命にある。そんな時に演奏に来たピアニストは不運ではあるのだが、それは致し方ないことで、良い状態を保持しようと思ったら、毎日調律するしかない。あるピアニストに限って、その狂いが我慢できないのか、狂っている弦に必ず詰め物をしていく。自分は耳がいいんだぞ!こんな狂った音は許せないぞ!と言わんばかりにへんてこなフェルトを丸めたようなものを詰めて、その音の発音を止めていくのである。次に調律に行くとその詰め物が残っていて、あー、あいつまたやりやがったな・・・となるわけである。
ライブハウスのピアノはあんたの物かい?演奏者がピアノの内部に触れることはご法度である。自分の私物ならいざ知らず、人の持ち物のピアノにそういうことをするのは犯罪?である。少なくとも自分の演奏が終わったら、その怪しげな詰め物は外して持ち帰るべきである。あんたのやっている行為は言ってみれば「料理屋さんで手弁当を広げる」ようなもんだ。そこのピアノが気に入らないのであれば自分のピアノもってこい。あるいは自分で調律の手配をせー!
こんなやつが、いきなり醤油・胡椒・ドレッシングなのである。御呼ばれしていった先のご飯に文句をつけるのである。小さい奴だ!
かの有名なリヒテルさんや著名な演奏家たちは、ピアノには文句をつけない。その場にある楽器を最大限に生かす演奏をするのである。くるっている音はその卓越したテクニックで弾かないなんてこともできる。「弘法 筆を選ばず」であって、実力のない奴ほど道具にけちをつける。道具のせいにする。そして弄り回したりする。どうか、おしんこにいきなり醤油をかけるという行為はやめてもらいたいもんです。他人の家の味噌汁にケチをつけるもんじゃないぜ!